すずめが先代から譲り受けた数々の、キッチン用品の整頓をしていた。
『このナイフの外箱は、もう捨てても良いかなぁ?』
と、見せてくれたのは『WUSTHOF(ヴォストフ)SOLINGEN(ゾリンゲン)』のステーキ用ナイフセットだった。
『へぇ〜、こんなモノを買っていたのか。買ったけど使わなかったんだね』
『それは狸が初めてドイツに出張した時に実家に買って帰ってきた、おみやげよ』
『全く覚えがなかったよ』
そういえば、亡父は『刃物はゾリンゲンが一流』って良く言っていて、ステーキ用ナイフはヘンケルの万能ナイフを使っていた。
じゃあ、と言って、狸が初めてドイツに出張した時に、セットを買って帰ってきたのかもしれない。
狸が初めてドイツに出張したのは1994年。
その頃は『ゾリンゲン』が刃物が有名な地方の名前だと知らず、メーカー名だと思っていた。
だから、製品に『SOLINGEN』と小さく書かれているのを見て『これだ!』と、買ったのかも、狸らしい。
父が他界する1年ほど前のこと。
もぅ、ステーキを食べる元気は残っていなかったかもしれない。
だから一度も使わないまま置いて有ったのか。
そう思うと『メルカリに出しちゃおうかな〜』なんて思っちゃいけなかった。
大事に使うことにしよう。
しかし狸は残念ながら、そこまでステーキが好きではないんだなぁ。
©Tanu記