8月13日は盆の入りだった。
狸は真面目な仏教徒というわけではない。両親は狸よりは真面目だが、昔の人の標準的な感じでそこまで敬虔な仏教徒では無かった。
それでも父は狸に比べると真面目であって、家庭の行事として迎え火と送り火を毎年欠かさず焚いていた。
両親をともに見送った後は、すずめも積極的に参加してくれるので、狸家では毎年なるべく欠かさないように行っている。
狸の実家がまだ有ったときは実家の玄関前で迎え火を焚いていた。
こどものころは『この火を目印に御先祖様たちが帰ってくるんだよ』との父親の言葉に、家には仏壇があったので『御先祖様は何時もそこ(仏壇)にいるよ』と教わってはいたものの、いざ『帰ってくる』と言われると、どこからともなく御先祖様たちが我が家に集まっている図を想像して、何となく背中に視線を感じながら恐る恐る家の中に戻ったものだった。
狸はマンション住まいなので、ベランダに置いた小さな素焼きの植木鉢で、ご近所に煙が流れないように気を使いながら、おがらを焚くだけのささやかな年中行事だ。
帰ってくる?御先祖御一行様に混じって、両親も、たまには夢の中にでも帰ってきてくれないかなぁ、と思うような歳に、狸もなってきた。
©Tanu記